.::■研究内容■::.


放射線検出器の原理
Fundamentals of nuclear radiation detectors
 

X線,ガンマ線検出器とは,放射線エネルギーを電気的あるいは光学的な信号に変換する装置のことであり、放射線の存在を検出するものや,画像信号に変換するものがある.

検出器に入射する放射線を直接電気的信号に変換する検出器は,直接変換型検出器と呼ばれ、これら検出器では放射線が検出器材料と相互作用して発生させた正電荷と負電荷を電極で集め電気信号として検出する.このグループに属する検出器には半導体検出器およびガスを用いる検出器(ガイガー・カウンター)等がある。

一方、入射放射線をシンチレータ等によって可視光に変換し、その可視光を光検出器により検出するものを間接型検出器と呼ぶ。このグループに属する検出器では可視光の検出はフィルムの感光層や光電子増倍管,フォトダイオード,あるいはCCDによっておこなわれる。

現在、ガイガー・カウンターや沃化ナトリウムシンチレータは放射線検出に広く使用されている。これら検出器は室温で動作可能であるが,検出した放射線のエネルギーを識別する能力は乏しい。従ってこれら検出器は放射線の存在を検出できるが、その放射線源の識別や特定は行えない。

一方、ゲルマニウム結晶を用いた半導体検出器は高いエネルギー分解能と検出効率をもつが、使用時には低温(約 -190 ℃)に冷却する必要があり、使用できる分野は限られている。

以上の状況から、高いエネルギー分解能と検出効率を有し,さらに室温で使用可能な高性能半導体検出器の実現が必要とされている。

そのような検出器を実現できる半導体材料にCdTeや CdZnTeがある。これら材料は原子番号が大きいため放射線の吸収能力が大きい特長を持つと共に、広い禁制帯幅をもつ材料である。これら材料を用いて検出器を構成した場合、放射線に対する吸収能力が大きいため高感度の放射線検出が可能となり、また禁制帯幅が大きいため常温においても漏れ電流を低減できる。そのためこれら材料では常温で動作可能な高性能の放射線検出器が実現できる。さらにこの検出器では検出放射線エネルギーと発生したキャリア数が比例するため、入射放射線のエネルギー分析も可能になる。従ってCdTeや CdZnTeを用いた場合、他の材料による検出器の性能を大幅にしのぐ高性能の検出器の実現が期待できる。



厚膜エピタキシャル成長層を用いた医療用大面積画像検出器アレイの開発
Construction of a large area imaging array based on thick epitaxial layers for medicine
 

有機金属気相成長法(MOVPE成長法)によりGaAs及びSi基板上に成長した厚膜CdTe層(厚さ500μm程度)を用いた、医療用大面積画像検出器アレイの実現を目的とした研究を行っている。

CdTeは原子番号が大きく、また禁制帯幅も大きいという物性的特徴を持ち、さらに電荷輸送特性も良好なため、優れた放射線検出器用材料である。

すでにバルクCdTe結晶を用いた単一もしくは小規模のアレイ型放射線画像検出器は実用化され、優れた特性を持つことが確認されている。

しかしながら胸部X線撮影等に利用できるような大面積・大規模のアレイ型画像検出器をバルクCdTe結晶を用いて製作することは不可能である。その理由はCdTeバルク結晶は成長時に格子欠陥や転位等の結晶欠陥を極めて発生しやすいため、良好かつ均一な電気特性をもつ結晶を入手することは極めて困難なためである。大面積・大規模のアレイ型画像検出器を製作するには、数百万もの特性のそろったバルク結晶による小さな検出器が必要となるが、数百万もの多数の特性のそろった検出器を得ることは不可能である。またそのようなアレイは製作工程が極めて複雑となり製作自体が困難である。

上記のバルク結晶による大面積画像検出器製作上の問題を解決し、さらにバルク結晶による検出器を大幅にしのぐ特性を持つ大面積・大規模アレイ型画像検出器を実現することを目的として、本研究室ではMOVPE法によるCdTe厚膜成長層を用いた放射線画像検出器の開発に関する研究を行っている。MOVPE法では GaAsやSi等の大面積基板上にCdTe層を成長できるため、大面積のCdTe層が得られる。またMOVPE法では電気特性が均一で高い結晶性をもつCdTe層を成長できるだけでなく、成長時に不純物添加を行うことにより成長層のp型やn型や電気特性の制御が可能である。従ってこれらの特徴を利用することにより、従来のCdTeバルク結晶による検出性能を大幅にしのぐ高性能の検出器の実現が期待できる。

医療用の高性能放射線画像検出器(放射線光子エネルギ140[keV]以下)を製作するためには,100〜500[μm]程度の厚さのCdTe厚膜成長層が必要であるが、既にこれら基板上における高品質の厚膜CdTe成長条件はほぼ確立している。現在はこれら基板上の成長層を用いた検出器の検出特性の向上を目的とした研究を行っている。



MOVPE成長
MOVPE growth
 

有機金属気相成長法(MOVPE法)は,高品質の半導体薄膜を成長する方法の一種であり、有機金属のガスを成長原料として用いることが特徴である。この原料ガスを成長基板上で熱により分解・反応させ、目的とする材料を基板上に成長させる。成長層の組成は原料ガスの供給量によって制御することができる。

またこの成長法では成長層の大面積化が容易という特徴がある。

当研究室では従来主として数μm程度までの薄膜成長に用いられてきたMOVPE法の成長条件を再検討し、数100μm程度の厚膜CdTeが成長できる条件を確立している。さらに成長時に微量の不純物を導入することによる成長層伝導型やキャリア密度の制御技術も確立している。

今後はこれらの技術を総合的に駆使し高性能大面積の放射線画像検出を開発する。



バルクCdTe結晶を用いた高エネルギーγ線検出器の製作
Fabrication of detectors for hard x-ray gamma-ray spectroscopy using bulk CdTe crystals
 

上で述べたように,光子エネルギー140[keV]以下の放射線は500[μm]程度のCdTe成長層を用いた検出器で検出できる。しかしながら,より高い数百[keV]のエネルギーをもつ放射線は透過能力が大きいため、500[μm]程度のCdTe成長層を用いた検出器では検出性能が低下する。これら高エネルギの放射線を検出するためには1[mm]から1[cm]程度の厚さを持つCdTe厚膜を使用した検出器が必要であり、現段階ではこれら高エネルギー放射線検出器は高抵抗バルクCdTe結晶を用いて製作されている。

バルク結晶を用いた検出器では,通常表面と裏面に金属電極を形成し、これら電極間にバイアスをかけて高電界を発生し,入射した放射線によって結晶中に生成された電荷(電子と正孔)を検出する。しかしながらバルク結晶は、結晶中に多くの欠陥が存在し、これら欠陥によって発生した電荷がトラップされるため、検出特性が低下するという問題がある。この問題は検出器に加える電界を大きくすることにより、ある程度まで克服することができるが、その場合には漏れ電流を低減できる工夫が必要となる。

当研究室ではバルクCdTeを用いた高エネルギー放射線検出器の高性能化を目的とした研究も実施しており、既に電極形状に独特の工夫を施すことにより特性を改善できることを報告してきた。





 ©2003 Yasuda Laboratory. All rights reserved.